受賞者と題名

各研究の概要

メトロノームの同期現象

久保雄輝

メトロノームには,針を一定以上ずらさないとすぐに止まってしまう, 一定以上針をずらし手を放すとはじめの針の位置によらずリミットサイク ルに引き込まれる,メトロノームの遊錘(上の重り)を動かし目盛を変え ると周期は変わるが安定状態の振幅は同じである,という 3 つの重要な 特徴がある.著者は「重力,ゼンマイの力,振り子とゼンマイ仕掛けの間 の摩擦」を考慮したメトロノームの運動方程式を導出し,これら 3 つの性 質が再現されることを示した.

2 つの円筒の上に水平に板を乗せ,一方向だけに動けるようにする.板 の上に複数台のメトロノームを置き振動させると,はじめはバラバラに振 動していても互いに影響を及ぼし徐々に振動の位相が揃っていく.これが メトロノームの同期現象である.この現象をメトロノームと板の連成振動 という視点から説明することを試みた.はじめに重力だけを考慮したラグ ランジュの運動方程式から,板とメトロノームの針に関する運動方程式を 得た.これにゼンマイの力と摩擦を加え,板とメトロノームの連成振動の 運動方程式を導出した.さらに,これらの運動方程式のルンゲ・クッタ法 による数値シミュレーションを行い,多数のメトロノームの同相同期現象 などが再現されることを示した.

一つ一つのメトロノームにリミットサイクル上の初期値を与えると,は じめは同じ振幅で振動するが,同相同期に至る過程でメトロノームがさま ざまな振幅で振動したりグループに分かれて振動したりと,振幅が大小関 係を含めて大きく変動しその後一定になった.また位相についても,大き く変動しその後位相が揃った.そこでほぼ逆相の初期値を与えた 2 個のメ トロノームと台からなる系で振幅や位相の変動を詳しく調べた.その結果, 同相同期に至るまでに振幅や位相が数回逆転していた.

この逆転現象は本当に存在するものなのかを物理実験でも調べた.2 個 のメトロノームの針をほぼ逆相の位置で手をはなした様子をビデオカメラ で撮影し,固定錘の動きを解析した.すると実験でも同相同期に至る過程 で振幅の逆転や位相の逆転現象が観測された.

以上の結果からこのモデル方程式は極めて有効であると判断した.

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肺胞毛細血管内のガス輸送モデルとその数理的研究

新城直幸

現在医療の進歩により臓器や脳などの生理学的メカニズムの解析が進んでいる. 特に呼 吸は生物が活動するエネルギーを得るため重要である.呼吸器系は体の各組織における酸 素(O2), 二酸化炭素(CO2) などの輸送を担っている. この各組織の代謝により生成される 二酸化炭素は血液によって肺に送られる. そして, 換気により外気へと放出される. また, 酸素については肺により外気から取り込まれる. このような呼吸器系の生理学的メカニズ ムを理解することは病気の診断や治療にとって必要不可欠である.

本研究では, 肺胞と毛細血管のガス交換の生理的機能を数理モデル化し, そのモデルを 数学的に解析することを通して二酸化炭素濃度や酸素濃度がガス交換の後, ある一定の濃 度に維持されるメカニズムの明らかにする. まず, 研究の最初のステップとして, Keener-Sneyd(1998) の研究を基に一様な毛細血管を流れる血液中のガスの輸送を空間1 次元の移 流方程式と血液内での化学反応を考慮してモデル化する. 次に, 今回の研究では肺胞の換 気の機能を入れた拡散方程式を導入し, ガスの輸送方程式と組み合わせた数理モデルを考 える. ここで肺胞とのガス交換は毛細血管との分圧差による拡散によって表す.

こうして得られる二酸化炭素除去のモデルの場合は線形の連立偏微分方程式系になり, 適当な境界条件を課すと正値な定常解の存在や, 大域的漸近安定性が証明できる. さらに 肺胞内の換気がスムーズに行われている場合の数値シミュレーション結果から, その定常 解が単調減少している事や, この定常解に収束することで, 肺胞毛細血管の出口で二酸化 炭素濃度がガス交換の後, 低い濃度で維持されるという特徴が示される.さらに, 肺胞の 換気機能の低下(肺胞低換気) に対応する現象や, 肺胞と毛細血管間における二酸化炭素の 除去の低下(間質性肺炎) に対応する現象についても, 数値シミュレーションによりこの数 理モデルで説明できる.

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多賀正道:感染症の拡散伝播モデルの研究

多賀正道

かつて1918年に米国で発生したスペインかぜは全世界に広がり、当時およそ18億人の世界人口に対し、感染者6億人、死者5000万人という爆発的感染(パンデミック)をもたらしたといわれている。パンデミックを防ぐためには、医療面からの対策はもちろんではあるが、それに加えて、感染症の伝播するメカニズムについて知っておくことが有用である。

本研究では、未感染者集団と感染者集団の変動を表したKermack-McKendrick感染モデルに、拡散による移動を考慮したモデル方程式(以下K-M拡散モデル)について考える。

K-M拡散モデルでは、感染の伝播速度が回復率を表すパラメータに依存していることが知られている。回復率は、現実世界に対応させると医療資源が直接影響を与えるパラメータと考えることができるが、医療資源は有限であるため、その制約の中で最大限感染の進行を抑えたい。そこで、回復率を場所に依存した関数として与え、限られた資源という制約条件の下で最適な回復率分布を探す。回復率関数としては任意の非負関数を設定できるが、今回は幅が狭く背の高い関数(以下A)か、幅が広く背が低い関数(以下B)のどちらが感染の進行を抑えるのに効果があるのかを調べた。その結果、数値計算から、Bの方がAに比べ感染の空間的な伝播の進行を抑えられることがわかった。この結果を数学的に裏付けるため、未感染状態を表す定常解の線形化固有値問題を調べ、その定常解の不安定性の度合いを示す正の最大固有値の大きさと回復率の関数との関係が数値計算の関係と対応していることを検証し、数値計算の結果が正当化されることを示した。

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交差拡散方程式の定常解の計算機援用解析

森竜樹

交差拡散(cross-diffusion)方程式は1979年にShigesada-Kawasaki-Teramotoによって提案された.交差拡散の効果を含んだ2種競争系の数理モデルで,非線形の反応拡散方程式系である.各個体は,通常の拡散では競争相手の有無に関わらずランダムに動くが,交差拡散では競争相手の個体数が多いところを避けて動く.我々の研究の目的は,交差拡散の効果により競合する2種の個体群が空間的な棲み分けを起こすかということを数学的に調べることである.

これまで,交差拡散方程式は空間1次元の場合,Mimuraによる数学的な研究を皮切りに,特異摂動法を用いた多くの研究がなされてきた.しかし,定常解の大域的な構造を明らかにするのは容易ではなく,未だ多くの部分が未解明である.

Lou-Niは,空間多次元で大きな拡散係数の場合もとりあつかう研究を開始した.この研究の中で,交差拡散の効果をを無限大とした極限方程式を導出した.極限方程式の空間1次元の場合については,Lou-Ni(JDE,1996,1999),Lou-Ni-Yotsutani(DCDS,2004),および,彼らの最新の結果により,解の全体構造が明らかにされた.

また,空間多次元の場合については,最近,特別な状況下ではあるが,定常解の存在,多重性,安定性がLou-Ni-Yotsutaniによって示されたところである.なお,安定性については,1次元で別の状況下に対して,Y.Wu (2005) により不安定性が証明されており,最近,さらに別な状況での安定性も示された.なお,長山(北大)により,1次元の場合の,定常解の存在・非存在・安定性に関し,興味ある数値計算の結果が得られている.

本研究では,1次元と2次元の場合において,パラメータの値をさまざまにかえたときに,解の存在・非存在領域,形状がどのように変化し,また,大域的に安定かどうかについて数値的に調べた.さらに,1次元の場合については固有値の挙動について詳細に調べた.

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Last Modified: Friday, 17-Mar-2017 18:57:51 JST