microphone これは数理情報学科の学生さんからのメッセージをそのまま掲載する学生の声のページです.

2006年度の数理情報学専攻修士課程卒業生の酒井聡士さんが, 修士課程を振り返って,後輩の大学院生のみなさんへのメッセージを寄せてくれました. 酒井さんは,修士論文公聴会のベストプレゼンテーション賞を受賞し,修了式では理工学研究科の修士課程修了生総代をつとめました.今(2007年5月)は会社で活躍中です.

研究は,発想の転換で劇的に進む

交通流モデルの研究には,非対称単純排他過程(ASEP:Asymmetric Simple Exclusion Process)の開放系相図に関するものがあります.開放系相図とは, 1車線道路の一部分を取り出した開放系境界条件について,車の入ってくる量と 車の出て行く量を変化させることで道路内の状態はどうなるかを表したもので す.ASEPでは,渋滞の起こる「高密度相」や渋滞の起こらない「低密度相」, 渋滞の起こる部分と起こらない部分が混在して現れる「高流量相」の3つに分か れることが知られています.また,その開放系相図の相転移については厳密解 が得られています.これと同じように,新たに提案したS-NFSモデルの開放系相 図について考えました.通常では,開放系相図を作成するとき,道路内の状態 を見て相を判定します.しかし,私は,これまでに発表された論文によって, それぞれの相は流量と関係していることが示されていると知っていたため,流 入率と流出率,流量の関係を表す3次元図を用いることを思いつきました. イメージ この 図は,交通流モデルによるコンピュータ・シミュレーションを用いて自動的に 作成することができるため,いろいろなモデルに応用することができます.研 究結果として西成先生*1にこの図を報告したときには,図の意味を理解していた だくことに時間がかかりました. しかし,後にこの図は西成先生によって高く 評価していただき,私の最初の学会講演につながっていきました.私の学習が, これまでの研究の発想を超えることに寄与したわけです.ここで重要なことは, たくさんの論文を読むことで,3次元相図が私の研究には便利ということに気 付き,2次元の相図を3次元図で表現するという「ちょっとした」発想の転換 をすることで,大きな研究の成果を得るきっかけとなったことです.言い換え れば,研究は難しいことを考えないと進まないというわけではなく,少しの発 想の転換によって大きく進展することがあるのです.

編注*1: 2004年まで数理情報学科の教員だった渋滞学の西成活裕氏.

学会や研究会で,できるだけたくさん発表する*2

大学院修士課程に進学して,西成先生が東京大学に異動されることをうけ, 飯田晋司教授にお世話になることに決めま した.これまでは,工学的な観点から研究を行なってきましたが,修士課程で は物理的な議論の必要性を感じていたからです.この研究室には,私の研究に 関連するそれぞれの先生方に,卒業研究のプレゼンテーションを行なった上で 決定しました.その後の研究スタイルは,飯田先生と論文について討論しなが ら,新たな研究結果が出たときには議論し,その結果を西成先生に電子メール で報告するというものでした. イメージ また,学習の過程で,飯田研究室の先輩との議 論も行ないました.また,応用数理学会や交通流のシミュレーションシンポジ ウムに参加・講演することで,学外の学生と知り合いになることができました. このような,活発に議論を行なえる環境にあったことが,より自分の研究につ いて理解し,また研究を進めていく意欲に大きく寄与していると考えています. 例えば,新たな研究結果が出たときには,意気揚々と飯田先生に報告するもの の,飯田先生の厳しい指摘により,意気消沈することもありました.しかし, その結果についてお互いに意見を言い合い,次々とその結果がさらに発展して いくこの感覚は,とても楽しいものがあります. 学会発表の前には,これまで の研究について,いろいろな観点から考えていくということを行ないます.こ の議論は,研究結果が広がっていくため,とてもためになります.また,自分 の研究結果の有用性について新たな発見をすることもあります.

原注*2:龍谷大学理工学部理工学会では学生会員の学会・研究会発表の交通費,宿泊費,参加登録費などの補助を行っています.

自分の研究と似た内容が発表されても,めげない

研究を進めていく過程で,2005年5月に,私の研究と似ている論文が発表されました.また,引き続いて7月に,我々が考えていた研究とほとんど同じ内容について結果が発表されました.5月の論文については西成先生によって連絡を受け,研究計画を変更しましたが,7月に私が発見した論文については,かなり焦って西成先生に報告しました.この経験は,私がいまやろうとしている研究については世界中の方々が同じことを考えていて,ライバルであることを実感した出来事でした.他の人によって発表されることで,私の研究計画を変更しなければならなくなりましたが,良い方に解釈すると,他の人が出した結果について学習するよい機会になりました.

英語の文章は,はじめは簡単な文法で書いてみる

英語の論文執筆をするにあたって,私はいきなり英語で書き始めるのではなく,論文の構成や書く内容などを決めるため,まずは日本語でまとめ論文を作成しました.はじめに,私は研究のまとめ論文を作成しました.その内容についてよく議論した後,ここで初めて英語の文章作りを開始しました.学会論文誌のための英語の文章は,決まり文句が多いため,他の人が書いた英語の文章は,たいへん参考になりました.私は,英語の論文を書くのは初めてですから,英語の論文を書くに当たって,まずは書きやすい章をひとつだけ完成させ,指導教員である飯田先生に見てもらうことにしました.その目的は,英語を書くに当たって自分の悪いところを知り,かつ英語の文章を書く感覚をつかもうというものです.この方法で行なうことで勢いをつけ,他の章も一気に書くことができました.

おわりに

研究においてたくさん研究論文を書いてきましたが,その際に,論文が早くできるコツをつかみました.そのコツとは,文章を書く前に,目次を作ることです.つまり,どのような順序で文章を書いていくか,論文の構成を考えるのです.この方法を用いれば,2ページ程度の講演概要の推敲前の文章を,最短2日で書き上げることができました.私は,たくさんの人から「論文がなかなか書けない」と相談を受けましたが,そういう人ほど論文の構成ができておらず,いきなり文章を書こうとするので,何から書き始めてよいかがわからないという状態にあったように思われます.また,研究を進めながらメモ程度の文章を日頃から残しておくと,いざ文章を書き始めるときに,それを使うことができるので楽になります.

後輩の皆さんに,メッセージを送りたいと思います.研究を意欲的に行なっている人は,ぜひ学会や研究会で発表をしてください.学会発表は,意外に思われるかもしれませんが,新しい結果さえでれば,誰にもできるものなのです.学会発表の目的は,新しい研究結果について適当なグループで発表し,質問・意見を出し合って議論することでさらに研究を深めたり発展させたりするというものが一般的です.つまり,研究が完成していなくても,最低限,議論する題材があればよいのです.学会発表すると,次のようなよいことがあります.

  • 他大学の学生と仲良くなれる
  • 研究について,経験数の近い人と語り合える
  • 自分の研究について,深く理解ができる
  • 大学の発表会に自信が持てる

皆さんの活躍を期待いたします.

最後になりましたが,日頃からお世話になっている西成先生,飯田先生,その他の数理情報学科の先生方,先輩,同輩,後輩の方々,また東京大学の西成研究室の皆様,交通流数理研究会の皆様,日本応用数理学会応用可積分系の皆様に大変お世話になりました.また,私が修士課程で発表した学会や研究会での講演は,龍谷大学理工学会の補助を受けております.この場をお借りして,御礼申し上げます.

References

Last Modified: Wednesday, 02-Jun-2010 20:04:42 JST